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起業物語Re79 再起編

社長交代の裏側 ―― 崩壊していた信頼関係

社長交代から1週間ほどが経った。

自分は毎日、クライアントや協力会社への挨拶回りに追われていた。
現場を回しながらの社長業務。
想像以上に過酷だったが、それでもやるしかなかった。

だが、訪問先では同じような言葉を何度も言われた。

「普通は、旧社長と新社長で挨拶に来るもんでしょ?」

当然の反応だったと思う。

普通であれば、前任者が同席し、
「今後は彼に任せます」
と引き継ぐのが筋だ。

だが、旧社長は一切同行しなかった。

もちろん、その場で

「旧社長が“行かない”と言っているんです」

などと言えるはずもなく、
自分は苦しい言い訳を繰り返すしかなかった。

中には、以前は良好な関係だった社長さんから、訪問そのものを断られることもあった。

「今は会わないほうがいい」

その時は意味が分からなかった。


数日後に届いた“メール”

理由がわかったのは、その数日後だった。

旧社長から、一通のメールが届いた。

内容を見て、血の気が引いた。

「社長を引き継ぐのであれば、会社の借金をすべて背負うこと」
「その際の保証人も、自分で立てること」

という内容だった。

自分は驚愕した。

経営権を引き継ぐ話は確かに承諾した。
だが、旧社長の経営によって積み上がった借金まで、自分がすべて引き継ぐなどという話は、一切聞いていなかった。

すぐに電話した。


電話で突きつけられた言葉

電話口で旧社長はこう言った。

・「社長を引き継ぐ話はしたが、全権委任するとは言っていない」
・「協力会社の単価を上げたのは背任行為だ」
・「勝手にクライアントへ挨拶回りしたのも背任だ」

もう、意味がわからなかった。

単価を上げたのは、工事数を増やし、キャッシュフローを改善するため。
挨拶回りも、社長として当然やるべきこと。

ひとつひとつ説明した。

だが、まったく聞く耳を持ってもらえなかった。


裏で行われていた“根回し”

そして後になって、さらに衝撃的な事実を知ることになる。

旧社長は、自分が挨拶回りに行く前に、
周囲のクライアントや協力会社へ、

「石川が挨拶に行くと思うけど断ってくれ」

と、根回しをしていたのだ。

だから、訪問を断られていた。

その瞬間、すべてがつながった。


自分から望んだわけではなかった

そもそも、自分から

「社長をやりたい」

と言ったことは一度もない。

「会社を任せたい」
「お前しかいない」

そう言われ、
尋常ではない業務量の中、
なんとか会社を立て直そうとして引き受けた。

だが、結局のところ――

旧社長は、
“自分が社長に返り咲くための時間稼ぎ”
として、自分を使っただけだったのだ。


追い打ちをかける一言

心身ともに限界に近づいていたところへ、
さらに信じられない言葉が飛んできた。

「そもそも、妻が浮気したのも全部お前が煽ったからだろ」
「妻も同じこと言ってるぞ」

もう、言葉が出なかった。

経営でも、仕事でもない。
完全にプライベートな問題にまで、自分が巻き込まれていた。

それでも確認しなければと思い、
代表本人に直接聞きに行った。

すると、返ってきた言葉に、さらに驚かされた。

「飲み会やってた頃、二人がくっつくように煽ってたじゃん」

……完全に逆だった。

自分は何度も、

「距離感がおかしいからやめてくれ」
「飲み会の趣旨を履き違えるな」

と注意していた側だった。

それが、いつの間にか
“煽った人間”にされていた。


心が完全に切れた瞬間

その時、自分の中で何かが完全に切れた。

「ああ、もう無理だ」

理不尽とか、裏切りとか、
そういう感情を通り越していた。

ただただ――
この二人の経営者に、もう関わりたくない。

心の底からそう思った。

そして、自分は静かに言った。

「お二人のお話を聞き、自分はこの会社に必要ないと感じました」

「3月付けで退職いたします」

そう言って部屋を出た。


これが、
自分がこの会社を退職することになった経緯だった。

長かった。

本当に長かった。

だが、この経験は、
後の自分の人生観や経営観に、
大きな影響を与えることになる。

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この記事を書いた人

石川信孝
茨城で建設会社を経営しています
工具はマイナスドライバー1本しか持っていません

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