焼き鳥の串
バスケ部を辞めてからというもの、自分はどこか空っぽになっていた。
朝は起きても目標がない。
夜はバイトやパチンコに逃げる日々。
何をやっても中途半端で、何を目指せばいいのかわからない。
惰性で過ごす毎日は、やる気もなければ希望もない、いわば「生きてるけど生きてない」ような感覚だった。
そんなある日、知り合いから「ファミレスの厨房でバイトしないか?」と声をかけられた。
なんとなく、断る理由もなかったので「うん」とだけ返事をして働きはじめた。
これが、人生の転機になるとは思いもしなかった。
初対面のインパクト
厨房には正社員で30歳くらいの男性がいた。
第一印象は…正直、怖かった。
身長は高くないが、どこか鋭い目つきで、ずっと何かを観察しているような感じ。
しかもなぜか、いつもポケットに焼き鳥のクシみたいなものを持ち歩いていた。
最初は「この人、なんでクシ持ってるんだ?」と不思議だった。
その答えはすぐにわかった。
クシの意味と“体育会系の洗礼”
バイトを始めて2日目、皿洗いが遅れた。
その瞬間、太ももに「ブスッ」と鋭い痛みが走った。
あのクシだ。
しかも本気のやつ。皮膚が裂ける感覚がした。
「おせーよ」
それだけ言って彼は去っていった。
怒鳴るわけでもなく、暴力をふるうわけでもない。
ただ、静かに“刺す”。
今なら完全にアウト。コンプライアンス違反、暴行事件。
でも当時の自分は「まあ、体育会系だしな」と変に納得してしまった。
逃げようと思えばいつでも逃げられた。でも、辞めようとは思わなかった。
不思議なことに、仕事が終わると彼はまるで別人になる。
どこまでも優しく、話好きで、気さく。
「いつか自分の店を持って、焼き鳥屋やるんだ」
そう語る彼の目は、まっすぐで、どこまでも本気だった。
お店開いたら新しいクシで焼き鳥やいてほしいところだ。
心のメンターの存在
不器用で、熱くて、ちょっとやり方は間違ってるかもしれないけど、
この人は本気で人と向き合っていた。
いつも「自分は何をやってもダメだ」と思っていた自分にとって、
「ダメでも、やるんだよ」って背中で見せてくれたような気がした。
皿洗いが早くなれば刺される回数も減っていく。
食材の補充が完璧にできれば「よし」と一言だけもらえる。
それが嬉しくて、真剣にバイトに取り組むようになった。
ただのお金稼ぎだったバイトが、「誰かに認められること」「信頼を得ること」に変わっていった。
焼き鳥のクシの意味
今でも思う。
あの焼き鳥のクシは、単なる“凶器”じゃなかった。
あれは彼なりの“教え方”だったんだ。
いや、もちろん物理的に刺すのはダメなんだけどね(笑)
ただ、あの痛みと一緒に、自分は確かに“やりきる強さ”をもらった気がする。
そして何より、「このままじゃだめだ」「もう一度、自分をちゃんと立て直したい」と思えた。
それは、バスケ部を辞めてからずっと失っていた“やる気”だった。
最後に
人生で、本気で叱ってくれる人に出会うのは、実はとても難しい。
でも、そんな人と出会えたら、それは宝物だと思う。
あのファミレスの厨房、血まみれの太もも、クシの痛み。
全部、今となっては笑い話だけど、自分にとっては「生き方の原点」だ。
クシの痛み以外に師匠からは多くのことを教わった。
それは次の機会に。

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