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起業物語Re24 生い立ち

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世界一の皿洗いになれ──師匠からの教え

あの人の言葉は、今でも自分の背中を押してくれる。

焼き鳥のクシで太ももを刺してくるような理不尽な師匠。
でも、その人の口から出る言葉は、どこまでも本質的で、まっすぐだった。


バスケ部を辞めて、フラフラとアルバイトを渡り歩いていた頃。
知り合いの紹介で始めたファミレスの厨房。
仕事は単純だった。

皿を洗う。
補充する。
ゴミを捨てる。
料理を出す。

正直、つまらなかった。
なにが楽しくて、皿にこびりついたソースを何十枚も何百枚も洗わなきゃいけないんだ。
「これ、バカでもできるだろ」
そんな風に思いながら、適当に手を動かしていた。

でも、そんな手はすぐにバレる。

案の定、厨房の片隅から焼き鳥のクシが飛んできて、「ブスッ」。
「おい、なにちんたらやってんだよ」
いつもの師匠の無言の説教。

最初はそれが嫌で、またクシが刺さるのが怖くて、必死に皿を洗った。
そうやってクシに怯えていたある日の仕事終わり。
喫煙所で一服していると、隣に座った師匠が、ぽつりと語り出した。


「お前、なんで皿洗いを必死にやらなきゃいけないか分かるか?」

いきなりの問いかけに、返事に困った。

「だって、怒られるからですよ…」
心の中ではそう思ったけど、口には出さなかった。

「皿洗いなんて誰にでもできるんだよ。そこに意味があると思ってやってんのか?」
師匠の言葉は、静かだけど重たかった。

「お前が今やってるのは“作業”なんだ。ただの作業。誰でも差がつかない、誰でもできるレベルのこと。
でもな、仕事ってのは“感動させること”なんだよ」

思わずタバコを落としそうになった。


「お前が本気で皿を洗ったら、それを見てるやつはちゃんと見てる。
“この子は真剣だ”って思われたら、次の仕事も任せてもらえる。
料理の仕込みも、オーダーも、全部任せてもらえるようになる。
今のままじゃ、ずっと皿洗いだけの男だぞ?」

言葉が胸に突き刺さった。

「今のお前には何もない。でも、逆に言えば何にでもなれる。
世界一の皿洗いを目指してみろよ。
お前がそこまで本気になったら、周りはお前のことを絶対に放っておかないから」

このとき初めて、「仕事は作業じゃない」という意味が腹に落ちた。


それまでは、「どうせバイトだし」「だるいし」「適当にやればいい」
そんなふうに甘えていた。

でも、目の前に“本気”で生きてる大人がいた。
クシで刺すなんて暴力的なやり方だけど、その裏には「お前をちゃんと育ててやる」という覚悟があったんだと思う。


それから自分は変わった。

洗い場で誰よりも早く、正確に、きれいに皿を洗った。
油のこびりついた鍋も、スポンジで何度もこすってピカピカに仕上げた。
ただのバイトの作業に、「プライド」と「こだわり」を持つようになった。

不思議なもので、それだけで厨房の空気が変わっていく。
「あいつ、なんか本気だな」って周りが気づき始める。

すると、少しずつ仕事を任せてもらえるようになった。
盛り付け、仕込み、オーダーの確認──
皿洗い専門だった自分が、厨房の中核に近づいていくのを感じた。


「たかが皿洗い。されど皿洗い。」

あの日、師匠がくれた言葉は、自分の考え方すべてを変えてくれた。
何をするにも、「感動させられるか?」を考えるようになった。

今では、どんな仕事も「意味がある」と思える。
掃除でも、接客でも、数字の入力でも──
誰にでもできるようなことを、誰よりも丁寧に、誰よりも熱心に。

それが“仕事”なんだと、師匠が教えてくれた。

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この記事を書いた人

石川信孝
茨城で建設会社を経営しています
工具はマイナスドライバー1本しか持っていません

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