主任になった日と、はじめての部下たち
派遣会社での自分の受け持つ部門は、勢いそのままに急成長を遂げていた。
当時、スーパーに特化した人材派遣会社はほとんど存在せず、
派遣といえば工場か、事務職が主流だった。
そんな中、自分は毎日のように現場に立ち、夜は本社で管理業務に奔走する日々。
目の前の仕事にただただ必死だった。
そして入社から3年も経たないある日。
辞令が出た。「主任に任命する」と。
役職というものの意味も責任もよくわかっていなかったが、
自分が担当するスーパー案件の好調を受けて、社長が新卒社員を3人採用。
その3人が、すべて自分の部下になった。
正直、焦った。
これまで現場で学び、走り回り、試行錯誤しながらやってきた。
けれど「人を育てる」なんてことは一度もやったことがない。
新入社員3人は、まずはレジ打ちを覚えるところからスタート。
現場に出て、肌でスーパーの空気を感じるところから始めてもらった。
が、それぞれ性格も考え方もバラバラ。
同じことを伝えても、響く人と響かない人がいる。
一人は真面目で頑張り屋、もう一人は理屈っぽくて冷静、
もう一人は自由奔放で空気を読まないタイプ。
全員を同じ方向に導くのが、こんなにも難しいとは思わなかった。
当初の自分は、「行動すれば伝わる」「ここまで説明すれば理解してくれる」
そんな風に“思い込み”で部下と接していた。
でも、現実はちぐはぐ。
指示通りに動かない、報告がこない、信頼関係も浅い。
焦るほど、空回りした。
あの頃の自分は、ただ「熱さ」だけを武器にしていたのかもしれない。
自分がかつて教わった“師匠の教え”を伝えたところで、
「なんやこの暑苦しいおっさんは」「むさくるしい…」
そんな風に、心の距離を感じることが多かった。
ある夜、ふと師匠の言葉がよみがえった。
「苦しい時ほど試されてるんだよ」
思い出して、はっとした。
自分がこの状況をどう超えるか。
そこにこそ意味があると信じた。
その日から、ただ一方的に教えるのをやめた。
まず、対話を始めることにした。
自分が間違っていれば、素直に謝った。
意見が食い違えば、とことん話した。
部下が悩んでいれば、一緒に考えた。
「なぜ働くのか?」
「お金のためだけでいいのか?」
「そのお金は、どんな価値に対する対価なのか?」
そんな問いを、何度も一緒に考えた。
もちろん、働く理由は人それぞれだ。
でも、自分が伝えたかったのは、**自己満足でいいから、自分の仕事で誰かが幸せになったら嬉しくないか?**ということ。
小さな気遣い、小さな変化。
それが、誰かの「ありがとう」に変わる瞬間を見てほしかった。
時間はかかった。
でも、少しずつ少しずつ、部下たちは変わっていった。
最初は戸惑っていた彼らが、自ら考え、行動し、
「こうした方がいいと思います」と提案するようになっていった。
仕事を“こなす”のではなく、“向き合う”ようになっていった。
その姿を見るのが、何より嬉しかった。
自分がやってきたことが間違っていなかったんだと、はじめて実感した瞬間だった。
部下の成長に助けられ、自分自身もまた一歩ずつ、
「リーダー」としての階段を登っていくことになる。
派遣という不安定な世界の中で、
どうやって人を導き、守り、育てていくのか。
この先、自分の人生にとって大きなテーマになる「人を育てる」という経験が、
この頃からはじまっていった。

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