転機と、人生を変える一本の提案書
順風満帆──まさに、そんな言葉がぴったりだった。
派遣会社での仕事は多忙を極めていたが、部下にも恵まれ、クライアントからの評価も高く、やりがいに満ちていた。
充実という言葉を全身で感じながら、日々を走り抜けていた。
あれから月日が流れ、自分は27歳になっていた。
そんなある日、大きな転機が訪れた。
発端は、いつも通りの業務の中で訪れた一本の電話だった。
相手は、自分が派遣で入っていた大手スーパーの人事担当の方。
「実はね…ちょっと、困ってることがあってさ…」
雑談のようなトーンから始まったその話。
内容はこうだった。
「うちのスーパー、県内だけで150店舗以上あるんだけど、各店舗がそれぞれ違う派遣会社と契約してるから、もう、管理がぐちゃぐちゃでさ。店長の要望も派遣会社によって伝わり方が違うし、肝心のスタッフも足りてない。正直、現場は混乱してるんだよね…」
なるほど。確かに現場に入っていれば、そういった“ほころび”は肌で感じていた。
情報のズレ、責任の所在、教育方針の違い…たくさんの“統一されていない”が、そこにはあった。
人事の方はぼやき交じりに話していたが、自分の中ではピンと来るものがあった。
「これは…チャンスだ」
根拠はない。でも、何かが動き出す予感がした。
そこで自分はこう切り出した。
「少しだけ、お時間いただけませんか?数日後にご提案書をお持ちしたいんです」
人事の方は「え?…うん、いいよ」と驚いたような顔で返してくれた。
自分の中で何かが燃えはじめた。
けれど、問題がひとつあった。
自分はパソコンが壊滅的に苦手だったのだ。
資料をつくるのに、文字のフォントを変えるだけで30分。
表を作ろうとすれば、Excelとワードの間で行ったり来たり。
人生でこれほどまでにPCとにらめっこした日はなかったかもしれない。
(※このパソコンアレルギーの話は、別のストーリーでたっぷり書こうと思います)
そうして3日間、睡眠を削りながらもなんとか完成させた提案書。
内容は、シンプルだった。
「いっそのこと、派遣会社をつくっちゃいましょう」
今思えば少し突飛だったかもしれない。
でも、自分なりに現場を知り、人を育て、スタッフの声を聞いてきた自負があった。
統一感がないなら、いっそ一つの会社でやればいい。
教育も運営も採用も、自分が設計すれば現場はきっと変わる。
「派遣会社をつくる」という提案は、派遣という仕組みそのものに一石を投じる挑戦でもあった。
提案書を持ち込んだ日、人事担当の方は黙ってそれを読み終えた。
そして、ゆっくりと顔を上げて、こう言った。
「…君、本気なんだね」
その瞬間、自分の中のスイッチが入った。
もう後戻りはできない。そう腹をくくった。
これが、自分の人生を根本から変える、はじまりの一歩だった。

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