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起業物語Re31 社会人編

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再提案への執念と、仲間の力

「素晴らしい提案なのですが…今回は、保留とさせていただけませんか?」

それは、1週間の沈黙を破って届いた一本の電話だった。

先日、全身全霊をかけて提出した「派遣会社をつくっちゃえ」という提案書。
中身に手応えはあった。現場を知っているからこそ出せた構想だった。

だが、その情熱は上場企業の役員たちには“届く形”にはなっていなかった。


今でこそネットにはテンプレも事例も山ほど転がっているが、当時は情報の海など存在しなかった。
提案書ひとつ作るにも、汗と足と人脈を総動員する必要があった。

「プレゼン資料やエビデンスが足りない」

これは敗北宣言ではなく、改善指示だ。
ならばやることは一つ。


まず、自分が取った行動は“上司を巻き込む”ことだった。

あの焼き鳥の串をもった師匠が口癖のように言っていた言葉があった。

「上司は使うもんだ」

自分にない経験や視点は、素直に借りればいい。
プライドなんていらない。夢に届くなら、頭も下げるし、知恵も借りる。

当時の派遣会社の上司は、理詰めの人だった。
情熱だけで突っ走ってきた自分とは対極の存在だったが、だからこそ必要だった。

「いいじゃん面白いよ。でも…資料、これじゃ通らないよな」

そう言いながら、上司は白紙のパワポを立ち上げた。


それからというもの、会社が終わった後も、カフェや会議室にこもって、徹底的に資料を練り直した。

SWOT分析、業界全体の構造、派遣市場の未来予測、行政との関係性、競合他社の調査。

アナログな自分は、足で情報を集めた。
図書館に行き、役所に電話し、スーパーの本部にアポを取り、データをかき集めた。

思えば、あの時初めて“企画書とは相手の未来を背負う責任”だと理解した気がする。


ようやく、納得のいく提案書が完成した。

上司にも何度も目を通してもらい、「これならいける」と太鼓判を押された。
資料をクリアファイルに詰めて、新しいスーツに袖を通した自分がそこにいた。


2回目の人事部訪問。

前回の“雑談の延長”のような面談とは違い、今回は正式に会議室に通された。
複数の担当者が揃っていた。

自分は深呼吸して、語りはじめた。

なぜこの仕組みが必要なのか。
現場がどう混乱しているのか。
それをどう整理し、どうシンプルに動かしていくか。
教育の標準化、派遣スタッフの定着、業務効率化による店舗へのメリット…。

パワポは全部で23枚。熱をこめて、全身で伝えた。


提案が終わったとき、人事の責任者がこう言った。

「…これ、本当に君が作ったの?」

「はい。現場と、上司と、そして人生の師匠に学んだすべてを込めました」


こうして、再提案のステージはクリアされた。
あとは役員会へのプレゼンに進むことになる。

だがそれは、さらに大きな山のはじまりでもあった。


振り返れば、あのとき自分には何の肩書きも、後ろ盾もなかった。
でも、現場を知っていた。
人を思い、人を動かしたかった。
派遣というしくみの中で、もっと良くできることがあると信じていた。

ただそれだけの気持ちで、一歩一歩、地を這うように進んできた。


「現場の若手が夢を語ったって、どうせ無理だろ」

多くの人がそう思うだろう。
でも、自分は思う。

「夢を語る資格は、肩書きじゃなくて、覚悟が決めるんだ」と。

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この記事を書いた人

石川信孝
茨城で建設会社を経営しています
工具はマイナスドライバー1本しか持っていません

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