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起業物語Re34 社会人編

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理想のチームと、見えなかった落とし穴

新しい会社は、スタートから好調だった。

とにかくやることは山積みだったが、「理想の派遣会社を創る」という目的のもと、すべてが前向きに見えていた。

まずは、150店舗すべてに足を運び、徹底的にヒアリングを行った。
派遣スタッフの配置状況、現在のスタッフへの評価、短期がいいのか長期的な雇用を望んでいるのか――。
ひとつひとつの現場のニーズを正確に把握するために、3ヶ月間、休みなく現場を回り続けた。

同時に、近隣の派遣会社にも頭を下げてまわった。
「今、御社で高評価のスタッフさんがいらっしゃれば、うちの新会社に転籍してもらえませんか?」

当然、全員が快く応じてくれるわけではない。
協力的な会社もあれば、冷たく断られることもあった。

それでも粘り強く交渉を重ねた結果、2年かけて、ほぼすべての派遣会社を1本化。
新会社へのスムーズな移行を実現することができた。

この2年間は、本当に目まぐるしい日々だった。


社員も増えていった。

スタート時はわずか5人だったチームが、2年後には15人に拡大していた。
中には、レジ打ち一筋15年の50歳の女性や、まったく異業種の営業職から転職してきた人もいた。

自分の採用方針は一貫していた。

「理念に共感できるか」

経験やスキルよりも、自分の中にある信念――
「派遣という仕組みを通じて、働く人の生活や環境を豊かにしたい」
という想いに共鳴してくれるかどうか。

だから、経歴は問わなかった。

むしろ、過去の肩書きやスキルにとらわれないことで、フラットな組織をつくれると信じていた。

派遣会社といえば、業務指示を流すだけの事務的な存在になりがちだが、自分たちは現場に入り、課題を拾い、共に働き、信頼を築いていく。
そんな“体温のある会社”を目指していた。


だが、ここで大きな落とし穴に気づくことになる。

「理念への共感=即戦力ではない」

確かに、想いに共感してくれる仲間は増えた。
だが、それぞれがバラバラな方向を向いてしまっていた。

仕事の進め方、報告の仕方、責任の感覚――
あまりにも差がありすぎた。

自分の想いを語りすぎて、「細かい業務ルールを共有する」という当たり前の部分を疎かにしてしまっていたのだ。

理想を語りすぎて、足元のマネジメントが手薄になっていた。

ある日、クライアントからこう言われた。

「御社の人間は、想いは立派だけど、現場がついてこれていませんよ。」

その言葉に、ガツンと頭を殴られたような感覚がした。


気づけば、現場では小さなトラブルが続出していた。

報連相の不徹底、業務のミス、スタッフからのクレーム――
「理念に共感している仲間だから大丈夫」
という甘い考えが、現場での綻びを生んでいた。

ここで、また自分に問い直すことになる。

「理念だけで会社はまわらない」

理念は大切だ。けれど、それは“土台”にすぎない。

その上に、仕組みや教育、ルール、フォロー体制が整っていなければ、いずれ崩れてしまう。


自分はもう一度、組織を見直す決意をした。

・理念と現実のバランスを取ること
・“共感”だけでなく、“具体的な実行力”を持った人材を見極めること
・ルールを整え、仕組みで支えること

スタッフに優しくすることと、甘くなることは違う。
仲間に共感することと、実務を担えるかはまた別の話。

当時の自分は、優しさと甘さの境界線があいまいだったのかもしれない。


理想を追い求めて集めた仲間たち。

その中には、今も共に働く大切な同志もいれば、志半ばで別れていった人たちもいた。

でも、すべてが自分にとっての“成長の種”だった。

理念だけで走ってきた2年間――
次は、それを“現実で形にする”フェーズへと移っていく。

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この記事を書いた人

石川信孝
茨城で建設会社を経営しています
工具はマイナスドライバー1本しか持っていません

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