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起業物語Re35 社会人編

目次

右腕の裏切り 

派遣会社を立ち上げてから、約1年が経ったころのことだった。

当時の自分は、150店舗のヒアリングや派遣スタッフの選定、社内メンバーの教育などに追われながらも、少しずつ手応えを感じはじめていた。

そんなタイミングで、某大手スーパーの若手店長が「勉強のため」という名目で、出向というかたちでうちの会社にやってくることになった。

年齢は自分の1つ上。

若くして店長に抜擢されるだけあって、頭の回転も早く、現場経験も豊富で、何より人間性が素晴らしかった。

気さくで偉ぶらない。
こちらを立てる姿勢もあり、一緒にいると自然と居心地がよかった。

彼はすぐに右腕のような存在となり、仕事を教える側のはずが、こちらが学ばせてもらうような場面も多かった。
気づけば週末にはよく一緒に飲みに行く仲になっていた。

派遣の現場管理、シフト調整、スタッフ対応、クライアントとのやり取り――
彼はみるみるうちに業務を吸収し、現場にとってなくてはならない存在になっていた。


それから1年後、つまり会社設立から2年ほどが経ったころ。
社員数も10人を超え、社内は活気に満ちていた。

自分は事業部長として実質的な経営を行い、社長(もともとの親会社の社長)はほぼ会社には顔を出さない。

出社してはお茶を飲み、1時間ほどでふらっといなくなる――そんな存在だった。

現場はというと、毎日がてんやわんやの連続だった。

新店舗のオープン対応、人員配置、研修、クレーム処理、売上管理……
考えることは山のようにあったが、仲間とともに奮闘する日々はやりがいに満ちていた。

そんなある日、突然1本の電話が鳴った。

新入社員の女性からだった。

「少し…お時間いただけますか…?」

声が震えていた。電話越しに、すすり泣く音が聞こえてくる。

「今どこにいる?そっちに行くから、待ってなさい。」

すぐに車を飛ばして、彼女の自宅近くのファミレスへと向かった。


彼女の顔は真っ赤に腫れ、目には涙が溜まっていた。

「何があった?」

彼女は声を震わせながら、静かに語り出した。

「◯◯さん(=右腕の彼)から、…セクハラまがいのことを…されていました。」

時間が止まったような感覚だった。

まさか、あの彼が――

信じたくなかった。

けれど、彼女の話は具体的で、状況の描写も明確だった。
なにより、震える声と涙を見て、嘘ではないことはすぐにわかった。

彼女だけではなかった。
話を聞くうちに、同じようなことを他の女性社員にもしていた可能性が浮上してきた。

「怖くて、言えませんでした。でも、もう我慢できなくて…」

その言葉を聞いた瞬間、自分の中の何かがはじけた。

怒りなのか、悲しみなのか、悔しさなのか。
とにかく、感情が押し寄せてきて、何も言えなかった。

信じていた。
一緒に汗を流してきた。
週末には酒を酌み交わし、苦しい時期を支えてもらった。

それが、なぜ――。


翌日、事実確認を行った。

彼の態度は冷静だった。
一部を認めるようなそぶりも見せたが、明確な謝罪はなかった。

自分の中で答えは出ていた。

「お前とはもう、一緒にやっていけない。」

右腕を失うことは、会社にとっても自分にとっても痛手だった。

でも、それ以上に守るべきものがあった。
一緒に働く仲間、職場の信頼、そして自分自身の信念。

彼には辞職してもらえるように促したが、事態は急変することとなる。

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この記事を書いた人

石川信孝
茨城で建設会社を経営しています
工具はマイナスドライバー1本しか持っていません

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