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起業物語Re37 社会人編

「守るべきものを見失わないために」

セクハラ被害を受けた女性社員は、それ以来会社に姿を見せなくなった。
当然だと思った。
心に深い傷を負ったまま、同じ職場で働けるわけがない。
自分にできることは、そっと寄り添うことだけだった。

3週間後、「退職したい」という連絡があった。
彼女の気持ちは理解できたし、無理に引き止めるようなことはしたくなかった。
その旨を受理し、正式に退職手続きを進めた。

ただ、この状況を会社として放っておくわけにはいかない。
No.2の行動は、間違いなく職場の信頼と安心を壊すものであり、組織のトップである社長には必ず報告しなければならなかった。

そこで社長に「大事な話があります」と時間をもらうことにした。
「場所は土浦の居酒屋にしよう」と社長。
少し違和感はあったが、了承した。

指定された居酒屋に行くと、驚くべき光景が目に飛び込んできた。
そこには社長の隣に、当のNo.2が座っていたのだ。
思わず言葉を失った。

「そこに座れ」と社長。
「ちょっと待ってください。なぜ彼がここにいるんですか?」

「いいから座れ」

釈然としないまま席につくと、まず自分から話を切り出した。

「社長、〇〇(女性社員)は本日付で退職しました。理由は明確です。先日の件が原因です」

そう伝えた瞬間、社長が制止する。

「まず俺に話をさせろ。お前は黙っとけ」

胸にモヤモヤが広がっていく。
自分の部下が退職に追い込まれているんだ。黙ってなどいられるわけがない。

社長は言った。
「いいか、セクハラっていうのはな、パンツの中に手を突っ込んだりして初めて成立するもんなんだよ」

思わず「……何を言ってるんですか?」と声が出た。
そんな基準で人を判断するのか。そんな物差しで被害者の痛みを測るのか。

どうやら、No.2は先に社長へ相談していたようだった。
当然、都合の良い言い方で。

社長は続けた。
「No.2が上げた売り上げを見てみろ。お前の次に数字出してるぞ。これからの戦力をどうするつもりだ?」
「一人の社員がセクハラだなんだと騒いでたら、会社なんてもたねえよ」

完全に絶句した。
被害を受けた側の心には一切目を向けず、売上だけを見ている。

そんな会社で働く意味があるのだろうか。
自分が作りたかった会社は、誰かの安心と成長を支えられる場所だったはずだ。

思い出すのは、かつての師匠の言葉。

「人を喜ばせ、感動させてこそ仕事だ。金はその結果ついてくるもんだ」

今ここにいる社長は、その真逆のことを言っている。

この日を境に、自分の中にあった「信頼」というものが音を立てて崩れていった。
同時に、自分がこれからどう生きていくか、どういう場所をつくっていくか、その方向性を改めて考えることになった。

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この記事を書いた人

石川信孝
茨城で建設会社を経営しています
工具はマイナスドライバー1本しか持っていません

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