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起業物語Re38 社会人編

その判断は誰のためのものなのか

自分が出張から戻って間もなく、セクハラの件を社長に正式に報告するべく、時間をもらうことにした。
会社として絶対に見過ごしてはならない出来事だったし、事業部長としての責任でもあった。

だが、打ち合わせの場所はなぜか「土浦の居酒屋」だった。
社長の指定だった。最初から違和感があった。

そして、居酒屋に到着すると、その場にNo.2がすでに座っていた。しかも社長の隣に。
思わず言葉を失った。

「なぜNo.2がいるんですか?」と尋ねると、社長は「いいから座れ」の一言。

場違いな酒の席で、自分はノンアルコール。
対する社長とNo.2はすでにビールを飲んでいた。

社長は言った。
「当人から話を聞かないと判断できないだろ」

いや、そうじゃない。

「社長。この話は、社長と自分、二人だけでするべきです。酒の場ではなく、会社の会議室で、冷静に話し合うべき内容です」

自分は冷静に、そしてはっきりとした声でそう伝えた。

「今回の件は、社長が自分を任命して立ち上げたこの会社の、根幹に関わる問題です。
セクハラを受けた社員、そして加害者であるNo.2双方からの事情聴取はすでに済んでいます。
その内容はすべて記録として文面に残してあります。
部長として、泣き寝入りさせたくありません。
彼女からは処罰の希望はありませんが、これは会社の将来のために、曖昧にしてはならないことなんです」

しかし、社長の反応は予想を超えていた。

「お前の考えは子供だ。
そんなことで会社は回らない。
No.2は売上を上げてる。今後も必要な人材だ。
一社員の感情で、そんな人間を切れるわけがない。
お前はNo.2と仲良くやっていけ」

その瞬間、心がふっと冷えた。

売上があれば何をしても許されるのか?
一人の女性社員が涙ながらに訴えた声は、そんなに軽いものなのか?

「社長のご判断がすべてですので、No.2を残すという決定は理解しました。
ですが、自分の進退については、少し時間をいただいて考えさせてください」

そう伝え、居酒屋を後にした。

外に出ると、土浦の夜のネオンがまぶしく光っていた。
けれどその光は、心の中にぽっかりと空いた空洞を埋めることはなかった。

悔しさ、怒り、無力感、そして深い悲しみ。
今まで仲間と築き上げてきたものが、音もなく崩れていくような気がした。

2年で黒字化、15名を超える社員。
すべて順調だったはずの会社が、今、最も大切な「人の心」を置き去りにしようとしている。

なぜ自分はこの会社を作ったのか。
なぜ自分はこの道を選んだのか。

夜風に当たりながら、自分に問い続けた。
そして、ひとつだけ確かなことがあった。

「このままでは終われない」

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この記事を書いた人

石川信孝
茨城で建設会社を経営しています
工具はマイナスドライバー1本しか持っていません

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