通信業界にゼロから飛び込む
通信業界に興味も知識もまったくない中、自分は「モバイルルーター」なるものを販売することになった。正直、「モバイルルーター?」「Wi-Fiってなに?」というレベルからのスタートだった。
当時は、家にインターネット回線を引いてパソコンにつなぐのが常識。そんな時代に「持ち運べるネット環境」という発想自体が斬新で、まるで未来の道具のように感じられた。工事不要で、その日からネットが使えるという点も衝撃的だった。
商品理解と現実とのギャップ
2011年頃、販売を始めた当初は「3G回線」という通信規格で、今からすれば信じられないほど速度が遅かった。動画を見れば途中で止まるのは当たり前。それでも「外でネットにつながる」という点は、当時の人にとって十分に魅力的だった。
ただ、商品に完璧なものはない。メリットとデメリット、両面をきちんと伝えた上で、「自分にとって必要だ」とお客様に思っていただく必要がある。そのためには営業力が欠かせなかった。
営業に必要なのは「話す力」より「聞く力」
人前で話すことに抵抗はなかったが、営業で大切なのは「話す力」よりも「聞く力」だと思っていた。お客様との会話の中から、どれだけ興味を引くワードを拾い、相手の本音に触れられるか。そこで勝負が決まると感じていた。
売り場は主にショッピングモールの廊下やイベントスペース。通りすがりの人にティッシュを渡し、足を止めてもらうところから始まる。「売られる」という警戒心を「欲しい」という気持ちに変えるまでが営業の醍醐味だった。
必死の営業の日々
当時の自分には、会社を続ける以外の選択肢はなかった。仲間もいなくなり、資金も底をつきかけていた。考えられるのは営業に集中することだけ。ほかのことを考える余裕すらなかった。
大切なのは「何を売るか」ではない。「お客様の感情をどう動かすか」だった。その商品がないと損をしたように思わせる。その感情を揺さぶることに、自分は全てを注いだ。
驚くほど売れていくモバイルルーター
幸いなことに、モバイルルーターという商品自体が真新しく、人々の興味を引いた。まだスマホが主流になりきっていなかった時代。外でパソコンを使う人や、出張が多いビジネスマンにとっては革命的な商品だった。
「え、これさえあればどこでもネットできるの?」
「じゃあうちの子の受験勉強にも役立ちそうだね」
そんな声をいただき、契約に結びついていく。自分の営業力だけではなく、商品の持つ新しさにも助けられて、ルーターは飛ぶように売れていった。
新しい時代の波にのる
それまでの人生で、これほど「商品と時代のタイミング」に助けられたことはなかったと思う。知識ゼロ、経験ゼロから始めた挑戦。けれども、飛び込む勇気があったからこそ、次の道が開けた。
ここで学んだのは「無知でも構わない、動くことが大事」ということだった。どれだけ準備しても、時代の変化は待ってくれない。分からないなら学べばいい。迷うよりもまず飛び込む。
この経験が、後の自分の経営にとって大きな財産となっていくのだった。

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