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起業物語Re50 起業・経営編

震災後に訪れた新しいチャンス

震災後も相変わらず、宮城や福島のショッピングモールを回り、モバイルルーターの販売を続けていた。日々、多くのお客様と出会い、被災した方々の声を聞きながら営業をしていると、販売以上に「人とのつながり」そのものが自分の力になっているのを実感していた。

そんなある日、一人のお客様がブースに立ち寄られた。某大手新聞社の販売店のマネージャーだった。その方は自分の接客をたいそう気に入ってくださり、ユーモアや冗談を交えながら元気よく商品を説明している姿を見て「あなたの接客は人を明るくさせる」と言ってくださった。震災で町全体が沈んでいる中で、少しでも明るさを届けたいという気持ちで接していただけに、その言葉は本当にうれしかった。

マネージャーはしばらく考え込んだ後、こう言った。
「震災で気落ちしている高齢者の方々のために、何かイベントをやらないか?」

突然の申し出に驚きつつも、ありがたい提案だった。ただ、そのときは「自分にいったい何ができるだろう」と頭を抱えた。バスケや営業の経験はあるが、高齢者の方々に喜んでもらえるイベントをゼロから考えるのは難しかった。


タブレット体験会というアイデア

そこでヒントになったのが、まさに自分が扱っているモバイルルーターだった。

「タブレットやスマホを高齢者の方々が使えるようになれば、震災で孤立している人たちの生活も少し楽しくなるのではないか」

そう考えた。実際、多くの高齢者がスマホやタブレットに苦手意識を持っていた。けれど本当は、ほんの少し触ってみるだけで便利さや楽しさを知ってもらえる。モバイルルーターがあれば、工事も不要でその場でインターネットに接続できる。

そこで自分が提案したのは「タブレット体験会」だった。新聞社のデジタル版を実際に読んでもらえるようにするだけでなく、Googleマップで観光地を探したり、音声検索で質問したり、ちょっとしたゲームを楽しんだりと、体験型の会を企画したのだ。

このアイデアにマネージャーも大いに喜び、準備を進めることになった。


初めての体験会

それから1カ月後。新聞販売店の購読者向けにチラシを配り、40名近い高齢者の方々が集まってくださった。会場には椅子がずらりと並び、最初は緊張した面持ちの方ばかりだった。

「今日は楽しくタブレットをいじってみましょう。難しいことは一切なし。ボタンを押せば世界が広がります!」

そんな調子で、最初から堅苦しい雰囲気を壊すようにユーモアを交えて話しかけた。会場はすぐに和み、タブレットを初めて触る方々が目を輝かせながら画面をスクロールしたり、音声検索で質問したりする姿があった。

「へぇー!地図が出てきた!」
「声を出すと本当に調べてくれるんだな」

驚きと笑顔でいっぱいの会場を見て、自分は胸が熱くなった。まさに「人を感動させること」ができた瞬間だった。


予想外の反響

体験会は予定の2時間を大幅に超え、終了後も質問が途切れず、最終的には4時間に及んだ。

「次はいつやるんですか?」
「孫にタブレットを買ってあげたい」

そんな声が次々とあがった。主催した新聞販売店のマネージャーも「大成功だ」と何度も感謝を口にしてくださった。

自分自身も、モバイルルーターを売る以上の大きな喜びを感じた。人を楽しませ、役に立てる。これこそが自分のやりたかったことかもしれない。


新しい波のはじまり

イベントが終わり、再びショッピングモールでの販売に戻った。しかしその後、新聞社から「ぜひまたやってほしい」という依頼が相次いだ。気がつけばタブレット体験会は定期的なイベントとなり、自分の活動は一つの新しいステージに入りつつあった。

あの日の一人のお客様との出会いが、大きな波を生み出そうとしていたのだ。

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この記事を書いた人

石川信孝
茨城で建設会社を経営しています
工具はマイナスドライバー1本しか持っていません

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