嘘つきのSくんの話
自分たちの会社はまだまだ小さく、わずか3人でデジタル体験会やショッピングモールでのモバイルルーター販売を回していた。全国を飛び回りながらの営業で、正直言って人手が足りない状況だった。そこで思い切って新しい仲間を募集することにした。
高校をまわり、就職を希望する生徒を探す中で出会ったのがSくんだった。ぽっちゃりとした体型に、どこか素朴な雰囲気をまとった田舎の子。こんな小さな会社に入ってくれるだけでもありがたい、最初は心からそう思った。
大量の荷物の謎
ところが、全国出張が始まると早々に違和感を覚えることになる。通常1週間の出張ならスーツケースは大きめのものが1つで十分。しかしSくんは違った。いつも2つ、多い時には3つものスーツケースを抱えてやってくるのだ。
理由を尋ねると「服が多いんです」と笑って答える。若い子だからおしゃれに気を遣うのか、と最初は深く気にしなかった。だがある日、ホテルで休んでいた社員がふとSくんの部屋を覗いた時、衝撃の光景を目にする。
部屋中に散乱する大量のゲーム機とソフト。任天堂Wii、プレイステーション、PSP…それに絡まるケーブルやコントローラー。そう、彼のスーツケースの中身は「服」ではなく「ゲーム機一式」だったのだ。
これには一同呆れるしかなかった。出張先にまでゲーム機を持ち歩くその執念には、感心すら覚えたほどだ。だが問題はそれだけではなかった。
遅刻の常習犯
Sくんはほぼ毎朝のように遅刻をしてきた。その理由を問えば「夜中までゲームをしていたから」。堂々とした言い分に怒る気力すら失せた。注意をしても全く改善の兆しはなく、ついには社員が毎朝彼を起こしに行くという信じられない状況にまで発展する。
「ゲームを持参するのをやめろ」と言っても遅刻癖は変わらなかった。結局、問題は荷物の中身ではなく、彼自身の生活習慣にあった。自分たちは必死に営業で数字を追いかける毎日だったが、彼だけはどこか危機感がなく、仕事をしているというよりは旅行に付き合っているような感覚に見えた。
それでも仲間だった
正直、何度も頭を抱えた。けれど小さな会社にとって、新しく入ってくれた人材はそれだけで貴重だった。仕事の覚えは悪くはなかったし、人懐っこさもあってお客様に可愛がられる場面も多かった。だからこそ、なんとか変わってほしいと願っていた。
小さなミスやトラブルはあったにせよ、みんなでカバーし合いながら出張を乗り切っていた。全国を飛び回る生活は過酷だったが、その分、仲間意識が強まるのも事実だった。だからSくんの遅刻癖やゲーム漬けの生活も「まあ、若いから仕方ないか」と自分たちはどこかで目をつぶっていたのだ。
嘘つきの片鱗
だが、そんなSくんがのちに会社を揺るがす“大事件”を起こす。彼がただの「ゲーム好き」で済む話ではないことを、自分たちは痛感することになる。
今振り返れば、この時点ですでに彼の「嘘つき」の片鱗は見えていたのかもしれない。遅刻の理由も、本当はゲームだけではなかったかもしれない。荷物が多い理由も、最初から「服」と偽っていた。
小さな嘘を重ねるうちに、それがやがて大きな嘘となり、会社全体を巻き込む問題へと発展していく――。その時はまだ誰も想像していなかった。

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