講師採用の試みと挫折
Sくんを解雇したあと、自分は会社の立て直しに力を注いだ。特に「人の採用」が急務だと考えていた。当時の事業はデジタル体験会とモバイルルータ販売の2本柱で成り立っていたが、全国各地で開催される体験会を自分一人で回すには限界があった。午前に2時間、午後に2時間、丸一日しゃべり続けると声は枯れ、体力も削られていく。長期的に考えると、自分が講師を続けることは不可能だと痛感していた。
採用活動の開始
そこで、自分はハローワークや無料の求人媒体を利用して「タブレット教室の講師募集」という求人を出した。結果は想像以上で、応募はかなり多かった。「講師」という響きが安心感を与えたのか、または教育分野の経験者が多かったのかもしれない。
面接を数名行った中で、特に印象に残ったのが50代の女性だった。温和な雰囲気をまとい、人前で話すことに抵抗がなさそうな人物。さらに塾の講師経験もあり、教育現場には慣れているという点もプラスだった。自分は彼女に期待し、試用期間として採用することを決めた。
試用期間の初日
採用後、すぐに実際のデジタル体験会に同行してもらうことになった。最初の1日は彼女の様子を見るため、自分がいつも通り講師として前に立った。午前の2時間、午後の2時間、自分はユーモアを交えながら会場を盛り上げた。笑いが絶えず、参加者の表情は明るい。いつも通り、満足度の高い体験会になった。
会場を後にし、移動の車中で女性が突然口を開いた。
「無理です。もうやめます」
あまりに唐突で驚いた。理由を尋ねると、彼女はこう答えた。
「今まで自分は、決まりきった台本を読んでいるような講義しかしたことがありませんでした。でも社長の話を聞いて、お客様を楽しませながら盛り上げる姿を見て一気に自信をなくしました。自分には到底真似できません。無理です」
必死の説得
自分はすぐにフォローに回った。
「同じやり方をする必要はありません。あなたなりのスタイルで伝えればいいんです。お客様も人それぞれだから、必ず響く人がいます」
だが、女性は首を振った。
「お客様は社長の評判を聞いて集まっているんですよね?その方々をがっかりさせるわけにはいきません」
彼女の言葉は重かった。自分の看板で集客しているという自覚はあったが、まさかそれを理由に即日退職を申し出られるとは思わなかった。
学びと決意
結局、その女性は初日で退職してしまった。自分の言葉も届かなかった。人を採用して育てることの難しさを痛感した瞬間だった。同じ教育の現場であっても、「ただ伝える」ことと「楽しませながら伝える」ことの間には大きな壁がある。
この出来事から自分は悟った。
- 講師は当面、自分が続けるしかない。
- 自分の代わりを探すのではなく、自分だからできる体験会を極めるべきだ。
- そして、講師以外の業務を任せられる人材を探す方向にシフトすべきだ。
「唯一無二、自分じゃなきゃダメだと言わせろ」――かつて師匠に言われた言葉を思い出した。講師として前に立ち続けることが、自分の役割なのだと強く感じた。

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