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起業物語Re68 再起編

目次

言った言わないの巻 ― “後出しじゃんけん社長”との地獄のコミュニケーション ―

建設会社に入ってしばらく経ったころ、
自分はひとつの壁にぶち当たっていた。

それは 「言った・言わない問題」 だ。

かつて自分が経営者だった頃、報連相(報告・連絡・相談)は当然のように徹底していた。
言葉ひとつで仕事が変わる世界を経験していたからこそ、
情報の伝え方、タイミング、相談の仕方には人一倍気を配っていたつもりだった。

だが、この建設会社ではその常識がまったく通じなかった。


■ 朝と午後で指示が真逆になる世界

ある日のこと。
朝に社長から受けた指示をもとに仕事を進めていた。

ところが、午後になると社長が言う。

社長
「なに勝手にそんなことしてんだよ!」

自分
「え…?朝にこうするよう指示いただいたので…」

社長
「俺はそんな指示してねぇよ!」

このやりとり、誇張でもなんでもなく、
本当に5000回くらい経験した。

指示が変わるのはまだいい。
問題は、「変えた」という自覚が一切ないことだった。


■ 証拠を残しても“無効化”される

あまりに混乱が多いため、
自分は指示内容をメールやLINEで残そうとした。

だが、帰ってきたのはこの一言だった。

社長
「そんなもん見てる時間ねーだろ!」

ラインで送ったら「長い」
口頭で確認したら「聞いてねぇ」
メモをとれば「そんなもん必要ねぇ」

つまり、どんな方法をとっても正解にならない。

ビジネスの基本がすべて封じられたような感覚だった。


■ ある日突然、基準がひっくり返る

数か月たったころ。

社長
「大事なやりとりはラインでやれよ!お前は言った言わないが多いんだよ!」

自分
「……(あなたが否定してきたんですが……)」

もはや笑うしかなかった。

この会社において、
伝達方法は社長の気分で変わる
ということを理解せざるを得なかった。


■ 「相談する」という機能がない会社

最終的に、自分はある結論に至った。

“この人に相談しても意味がない”

相談しても指示が変わる。
相談しても怒鳴られる。
相談しても否定される。

ならば、相談しないほうがいい。

そこからは、自分の判断力を研ぎ澄ませるしかなかった。
そして気づけば、2年ほどで驚くほどスキルが上がっていた。

皮肉にも、
社長に振り回された経験が自分の成長速度を加速させたのだ。


■ 社長は他社にも同じことをしていた

ただ、ひとつだけ安心材料もあった。

社長が協力会社やクライアントと電話していると、
よくこう怒鳴っていた。

社長
「お宅は言った言わないが多すぎるんだよ!」

……いや、それ絶対あなた側の問題です。

そう思いながらも、
自分だけが責められているわけではないと知り、
少しだけ気が楽になった。


■ 金銭トラブルも日常茶飯事

さらに厄介だったのが“お金の話”。

社長が下請けに提示した金額と、実際の振込額が違うことが頻発。

当然、トラブルになる。

下請け
「話と金額が違うんですが?」

自分
「大変申し訳ございません……」

そのたびに間に入り、謝罪し、調整し、時には頭を下げ続けた。

その経験のおかげで、
交渉力も謝罪力も異常に鍛えられてしまった。


■ そして忘れられない社長の一言

7年間で、一度だけ社長が本音を漏らしたことがある。

社長
「あー俺、後出しじゃんけん得意だからな。ははは」

その瞬間、すべての点が線でつながった。

“やっぱりわざとなんだ。”

“混乱させて優位に立ちたい人なんだ。”

理解した瞬間、逆に怒りよりも冷静になり、
自分の中で何かがストンと腑に落ちた。


■ 振り回された7年間がくれたもの

理不尽で、非効率で、精神をすり減らす日々だった。
しかし、その分だけ自分の仕事の幅が広がり、判断力もつき、
「誰と働くか」がどれほど重要か身をもって学ぶことになった。

あの7年間がなければ、
今の自分のスキルや耐性は間違いなく存在しない。

そして同時にこうも思う。

“二度と後出しじゃんけんタイプの人間とは働かない”

これが、今の自分の強い信念になっている。

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この記事を書いた人

石川信孝
茨城で建設会社を経営しています
工具はマイナスドライバー1本しか持っていません

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