窃盗事件 ―― 嘘が現実を壊すとき
この会社には、本当にいろいろな人がいた。
今思い返しても、まるで人間図鑑のような職場だったと思う。
常に足のにおいを漂わせている人。
常に誰かにキレていないと気が済まない人。
自分を大きく見せることだけが人生の目標のような人。
どれも強烈だったが、社会勉強という意味では学ぶことも多かった。
だが、その中でも群を抜いて厄介な人間が一人いた。
それが――
**「嘘をつく人間」**だった。
嘘は、ただの性格の問題では済まされない。
職場においては、信用を壊し、人を巻き込み、やがて現実そのものを破壊する。
そのことを、身をもって知ることになる。
嘘つきのA君
その人物を、ここではA君とする。
A君は、息をするように嘘をつく人間だった。
しかもその嘘は、子どもが考えそうなものから、もはや意味不明なものまで幅広い。
代表的なものを挙げると――
・小学生のころ、50mを4秒を切って走れた
→ それは100mの世界記録レベルだ。
・あと少しでジャイアンツにスカウトされるところだった
→ 本人は卓球部。
・笠間焼の文化は、自分の祖父が作り上げた
→ いくら調べても、そんな話は出てこない。
・実家でドーベルマンを100匹飼っている
→ 餌代だけで何千万かかる計算になる。
・東京タワーは俺が建てた
→ 何歳だ。
・武道館でコンサートを開いたことがある
→ 本人はドとレの音階でしかグレイを歌えない。
もはや突っ込む気力も失せるレベルだった。
最初は冗談だと思っていた。
だが、彼はそれを真顔で言う。
しかも話がどんどん盛られていく。
プライベートの話だけなら、まだ笑って済ませられた。
だが問題は、仕事のミスまで嘘でごまかすことだった。
管理職としての立場
当時、A君は自分よりも前から会社に在籍していた。
だが、役職としては自分の方が上で、管理職の立場だった。
そのため、A君のついた嘘の後始末をするのは、決まって自分だった。
・A君の説明と事実が違い、クライアントに謝りに行く
・現場でのミスを、なぜか自分が頭を下げて回る
・「聞いていない」「やったつもりだった」という言葉の尻拭い
正直、何度も心が折れかけた。
だが、最も衝撃的だったのは、ある事故だった。
高所作業車の事故
ある現場で、高所作業車を使用していた際のことだ。
A君は、サイドブレーキをかけ忘れた。
その結果、作業車は坂道を動き出し、
近くの民家のフェンスを派手に破壊してしまった。
幸い、人的被害はなかった。
だが、状況としては一歩間違えれば大事故だった。
ところがA君は、最後までこう言い張った。
「サイドブレーキは引きました」
「これは車の故障です」
それだけではない。
「自分は壁と車の間に入り、民家を守ろうとした」
「そのとき、弾き飛ばされた」
まるで映画のワンシーンのような武勇伝を語り始めた。
だが後日、現場近くにいたガードマンの証言が入った。
「A君は、ただ茫然と立ち尽くしていました」
事実は、それだけだった。
この事故が原因で、その現場からは**出入り禁止(NG)**が出た。
クライアント対応、謝罪、修繕の調整――
すべて、自分が引き受けることになった。
そして、次の事件へ
このとき、はっきりと感じた。
嘘は、必ず周囲を巻き込む。
そして、嘘をつかない人間が、その代償を払わされる。
被害が大きくならなかったことだけが救いだった。
だが、これで終わりではなかった。
この後、A君は
会社の信用を根底から揺るがす、さらに大きな事件を起こすことになる。
それは、
「もうフォローでは済まされない」
そんな一線を越える出来事だった。

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